「ここではないどこかに行きたい」

15才。

ナオは毎日ぼんやり生きていた。

夢中になれることもなく、一生懸命にうちこむこともなく。

くだらない遊びをヘラヘラして、楽しかったことにしていた。

何も考えたくない時は、自分が住んでいる古いビルの屋上に行く。

真夜中「ダサくてバカみたい」と思いながらタバコを吸っていた。

 

「ここではないどこかに行きたい」

 

父親と母親、母親の愛人、家の借金、学校、全部から逃げたかった。

いつも現実逃避をしていた。

 ビルの屋上から目を下にやると、行き交う車のテールランプ。

赤くてきれいだな。

冷たい風が、煙と灰を吹き飛ばしていった。

 

ナオには親友がいた。真奈美ちゃん。

いつもつるんでいた。

そして家に入り浸っていた。

 

真奈美ちゃんのお母さんは、嫌な顔もせず「ご飯食べていく?」と声をかけてくれた。

そして、泊まった日の翌日は、お弁当を作っておいてくれていた。

ナオは真奈美ちゃんのお母さんの事が、自分の母親よりも大好きだった。

 

f:id:lustforlife4023:20220225144046j:plain

 

ある日、真奈美ちゃんから「妊娠した」と告げられた。

相手は以前、一度だけ会った男の人だった。

ナンパされた相手。

 

どうしてそんな事するの?

まだ15才、産めるわけがない。

もうつわりが始まっていた。

 ナオはほんの少し、お小遣いをカンパをして、病院をあちこち探し回った。

「保険がきかないから親にバレない」という噂を聞いていた。

でも、なるべく遠い所の病院に電話をして予約をした。

真奈美ちゃんは、お姉ちゃんからお金を出してもらって中絶した。

 

当日、ナオは自分の事でないのに悲しくて仕方なかった。

その日はちょうどテストで、真奈美ちゃんの付き添いより、テストを選んでしまったことを申し訳ないと思って泣いた。

 

「気にしないで、大丈夫だから」

 真奈美ちゃんは平気そうにしていた。

「運が悪かっただけだよ」

いつもと変わらない笑顔。

 

いつもナオは現実逃避していた。

どうしようもない現実、もって行きようのない感情。

どうかして、空虚な毎日を埋めようと一生懸命だったかもしれない。

バカな子供なりに。

 

2人はよく放課後、校庭の野球部のネットによりかかかりながら

 「ここじゃない、どこかに行きたいね」

「誰も私らの事を知らないところにね」

 

白い息をはきなから話していた。

お揃いで買った手袋をして。

冬の空は高くて透き通っていた。

そしてどこにも行かないまま卒業した。