15才。
ナオは毎日ぼんやり生きていた。
夢中になれることもなく、一生懸命にうちこむこともなく。
くだらない遊びをヘラヘラして、楽しかったことにしていた。
何も考えたくない時は、自分が住んでいる古いビルの屋上に行く。
真夜中「ダサくてバカみたい」と思いながらタバコを吸っていた。
「ここではないどこかに行きたい」
父親と母親、母親の愛人、家の借金、学校、全部から逃げたかった。
いつも現実逃避をしていた。
ビルの屋上から目を下にやると、行き交う車のテールランプ。
赤くてきれいだな。
冷たい風が、煙と灰を吹き飛ばしていった。
ナオには親友がいた。真奈美ちゃん。
いつもつるんでいた。
そして家に入り浸っていた。
真奈美ちゃんのお母さんは、嫌な顔もせず「ご飯食べていく?」と声をかけてくれた。
そして、泊まった日の翌日は、お弁当を作っておいてくれていた。
ナオは真奈美ちゃんのお母さんの事が、自分の母親よりも大好きだった。
ある日、真奈美ちゃんから「妊娠した」と告げられた。
相手は以前、一度だけ会った男の人だった。
ナンパされた相手。
どうしてそんな事するの?
まだ15才、産めるわけがない。
もうつわりが始まっていた。
ナオはほんの少し、お小遣いをカンパをして、病院をあちこち探し回った。
「保険がきかないから親にバレない」という噂を聞いていた。
でも、なるべく遠い所の病院に電話をして予約をした。
真奈美ちゃんは、お姉ちゃんからお金を出してもらって中絶した。
当日、ナオは自分の事でないのに悲しくて仕方なかった。
その日はちょうどテストで、真奈美ちゃんの付き添いより、テストを選んでしまったことを申し訳ないと思って泣いた。
「気にしないで、大丈夫だから」
真奈美ちゃんは平気そうにしていた。
「運が悪かっただけだよ」
いつもと変わらない笑顔。
いつもナオは現実逃避していた。
どうしようもない現実、もって行きようのない感情。
どうかして、空虚な毎日を埋めようと一生懸命だったかもしれない。
バカな子供なりに。
2人はよく放課後、校庭の野球部のネットによりかかかりながら
「ここじゃない、どこかに行きたいね」
「誰も私らの事を知らないところにね」
白い息をはきなから話していた。
お揃いで買った手袋をして。
冬の空は高くて透き通っていた。
そしてどこにも行かないまま卒業した。